ソフトウェア レビュー

HyperWorks

 ArcGIS for Desktopは、地理空間情報を処理、分析、管理、可視化するためのGISソフトウェアです。地理空間情報というのは、ある場所に関する位置の情報と、その場所の情報を組み合わせたもので、非常に膨大な量の地理空間情報が日々生み出されています。GIS(地理情報システム)は、そうした地理空間情報を効率的に処理するために必要不可欠なものです。ArcGIS for Desktopは、世界最大のGISソフトウェア会社である米国Esri社が開発しているソフトウェアで、日本でも広く使われてきました。GISを利用した授業は、地理学、都市工学、環境学、経済学など様々な分野のカリキュラムに組み込まれていますので、東京大学では、学部を問わず様々な授業でArcGISは活用されています。もちろん、授業だけでなく研究においても積極的に使われています。例えば私は、位置情報のついたTwitterデータの解析を最近行っていますが、数千万件の膨大なデータを処理する必要があり、その過程や地図化にArcGISを利用しています。


重心なので、例えば東京でのツイートが多ければ東京寄りに分布します。東京と京阪神の間に重心が集まっているなど、日本全体での人の動きが見えてきます。



東京だけでなく、ブラジル人居住者が多い群馬や愛知、静岡などでも、まとまった分布を確認できます。

 さて、私がArcGISを使い始めてから10年以上経ちました。そんなユーザから見た今のArcGIS for Desktopの便利な機能をいくつか挙げてみたいと思います。
1.高度な空間分析ツール群
 ArcToolboxと呼ばれるツールの道具箱に、様々な空間分析を行うためのツールが入っています。ライセンスの種類(Basic, Advanced)に応じて利用できる分析ツールは違いますが、Basicだけでも338種類の分析ツールが利用できます。また、ModelBuilderという機能を使えば、複数の分析ツールを組み合わせたり、その処理の流れを、フローチャートの形で確認したりすることもできます。さらに、これらの分析ツール群は、Pythonからも利用できますので、Pythonを使ってオリジナルな空間分析ツールを作成し、ArcGIS forDesktopから利用することも可能です。
2.クラウドGISサービスとの連携
 ArcGIS for Desktopの関連製品として、クラウドGISサービスであるArcGIS Onlineがあります。ArcGIS Onlineは、高度な空間分析をクラウド上で処理できるサービスだけではなく、ArcGIS for Desktopなどで作成した地図を他のユーザと共有できるサービスでもあります。ArcGIS for Desktopからは、非常に簡単な手順でArcGIS Online上に地図をアップロードすることができますので、授業で学生に作成してもらった地図をクラス全員で共有したり、研究成果に関する地図を社会に発信したりすることが容易にできます。
3.背景地図(ベースマップ)の利用
 GISソフトを利用するためには、地理空間情報に関するデータ(GISデータ)が必要不可欠です。しかし、道路や鉄道などの情報を示した一般的な地図や、航空写真の地図など、背景として使われるGISデータは、利用頻度が高い一方で、全国あるいは世界のデータを入手するとなると、非常に高価になります。ArcGIS for Desktopでは、ベースマップと呼ばれる数種類のオンラインの背景地図(衛星画像(航空写真)、地形図、海洋図など)を利用できます。
4.豊富な日本語のヘルプ
 日本語の詳細なヘルプがインターネット上に公開されていますので、不明な点があればすぐに調べることができます。 GISを用いることで、地理空間情報を効率的に処理、分析し、2次元だけでなく3次元も含めた地図で情報を視覚的に表現できます。それにより、新たな知見を得たり、問題を再発見したり、課題解決の道筋を見つけ出したりすることができます。ArcGISは、そうした一連の作業を、直感的なインターフェースを通して効率的に行うことのできるソフトウェアです。